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機械学習を使ってデジタル顧客体験(DCX)を向上させるには?:DataRobotとKARTEの連携方法のご紹介

2021/08/25
執筆者:
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はじめに

DataRobot で小売業のお客様を担当しているデータサイエンティストのグザビエです。本稿では、DataRobot と KARTE を連携することで実現できる、デジタル顧客体験を高度にパーソナライズする方法をご紹介します。

ここ数年、デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)が非常に重要なテーマとなっています。経済産業省が発表した2018年のレポートでは、企業がデータを活用できなければ、急激な市場の変化に対応できず、デジタル競争の敗者になると言及しています[1] 。そして、コロナ禍における新しい日常により、消費者の習慣はオフラインからオンラインへの移行が加速し、E コマースでの買い物の統計だけを見ても、前年比20%以上の伸びを示しています[2]

DX は、この変化の激しい環境で企業が生き残るための鍵となります。そのため、当社のお客様の中には、DX に挑戦し、デジタル顧客体験(DCX:Digital Customer Experience)の向上に力を入れている企業が多く見られます。

DCX の目的は、デジタル・カスタマージャーニーの各タッチポイントにおいて、お客様一人一人により多くの記憶に残る瞬間(感動と満足)を提供することです[3]。この目的を実現するために、PLAID 社が開発したカスタマー・エクスペリエンス・プラットフォーム「KARTE」が多く使用されていますが、KARTE プラットフォームを使用したとしても、アクションやセグメント作成など、人間が判断しなければいけない部分は多岐にわたります。そこで、DataRobot のような人工知能(AI:Artificial Intelligence)と KARTE を組み合わせて活用し、より簡単にパーソナライズされた体験を提供する試みが始まっています。

本稿の次章で、機械学習を DCX 向上に活用したユースケースを紹介します。続いてLife Time Value(LTV:顧客生涯価値)予測を例に、DataRobot を使うことでどのようなメリットがあるのかを見ていきます。最後に、DataRobot と KARTE を組み合わせて使う場合に使用できる様々な連携方法を紹介します。

DCX で注力すべき機械学習活用方法は?

本章では、E コマース分野の DCX に適用できる機械学習ユースケースに焦点を当て、人工知能(AI)を活用することで、顧客がカスタマージャーニーの各ステップをより効率的に進められることをご紹介します。

図1.DCX で注力すべき機械学習活用方法
図1.DCX で注力すべき機械学習活用方法

DataRobot のような機械学習プラットフォームを利用すれば、過去の履歴データに基づいて機械学習モデルを構築し、顧客の属性や行動に基づいて、一人一人の顧客のコンバージョン確率を予測したり、顧客セグメントを作成するためのルールを出力することができます。

また、KARTE のような CX プラットフォームでは、ウェブサイトやアプリ上から個人情報を除く顧客属性(年齢、性別、地域など)や行動データを収集することができ、それらのデータを分析することで作成したセグメントやアクションに基づくデジタル顧客体験を提供できます。

そこで、DataRobot の予測値と KARTE のプラットフォームを組み合わせることによって、ウェブサイトやアプリケーションを閲覧している利用者によりパーソナライズされた体験やオファー、サービス(コンテンツの出し分け)を提供することができます。

次のセクションでは、顧客の LTV 予測に基づく顧客体験設計のケースを例に、マーケターが今まで直面していた課題と、DataRobot のような AI プラットフォームがそれらの課題解決にどう役立つのかを解説していきます。

LTV を活用した DCX で発生する課題を解決するには?

ある EC サイトが多額の費用をかけてプロモーションを行い、新規顧客を獲得したとして考察します。彼らの収益や ROI を最大化(=顧客のLTVを最大化)させるためには、新規顧客がその後その EC サイトで販売している商品を繰り返し購入するようになってくれるかどうかが非常に重要です。

このような「リピート購入」を促進するために、その EC サイトのマーケターは彼らの通販サイトやアプリを通して商品を購入する顧客の DCX をパーソナライズします。具体的には、以下の4ステップによって、パーソナライズされた体験、オファーやサービスなどを提供していきます(下図2)。

  1. CX プラットフォームを利用して顧客の属性データや行動データなど、様々なデータを連携させる
  2. 過去の顧客行動を可視化しながら分析する
  3. ルールベースによるセグメントを作成する:例えば、 LTV が高くなりそうなセグメントを定義するために、「初めて購入する人で、注文額は5,000円以上」というようなシンプルなルールでセグメントを作成
  4. 各セグメントに合わせて、ウェブサイトやアプリ上でオファー(例:10%の割引を適用)やコンテンツの出し分けを行う
図2. これまでのLTVを活用したDCXのパーソナライズの様々な課題の例
図2. これまでのLTVを活用したDCXのパーソナライズの様々な課題の例

しかし、このアプローチにはいくつかの課題があります。

  1. データ分析に時間がかかる:マーケターは今まで、個々の顧客の行動を分析していましたが、顧客数の増加やデータの種類の増加に伴い、データ分析にはますます時間がかかります。
  2. 複雑なデータ分析:複数のタッチポイント(ウェブサイト、アプリ)と複数の顧客属性情報(年齢、性別、地域など)があるため、リピート購入や高い LTV と強く相関しているパターンを見つけ出すのが困難になります。
  3. シンプルすぎるゆえの不正確なセグメンテーション:「初めて購入する人で、注文額は5,000円以上」のような単純なセグメンテーションを利用するといくつかの問題が生じると考えられます。例えば、予測に基づかない方法で高 LTV セグメントを定義しているため、実際の LTV と乖離が生じる可能性があります。また、年齢、性別、商品の閲覧回数など複数の属性情報が存在しているにも関わらず、上記のセグメンテーションでは高LTV顧客を定義するのに1つの属性(=購入金額)しか使用されていません。その欠点を補完しようと大量のセグメントが作成され、それらの管理に追われ、顧客に合わせて十分にパーソナライズされた体験を提供することが困難になる可能性があります。

もしこれらの課題を解決できず、顧客体験のパーソナライズが限定的にしか提供できない場合、大きな機会損失を招いてしまうでしょう。

しかし、心配には及びません。上記3つの課題は、DataRobot の機械学習の自動化製品(DataRobot Auto ML)によって解決することができます。上記 LTV 予測のテーマ例について、DataRobot を使ってよりパーソナライズされた顧客体験が可能になることを下図3に示しましたので、具体的に見ていきましょう。

図3. DataRobot を用いた LTV 予測を活用したDCXのパーソナライズの例
図3. DataRobot を用いた LTV 予測を活用したDCXのパーソナライズの例
  1. 価値を生み出すまでの時間を短縮:DataRobot Auto ML を使うことで、マーケターは自動化された機械学習プラットフォームによって、短時間で大量のモデルを作れる(様々なシナリオに基づいたAIモデルを作成することができる)ようになります。
  2. 高精度で透明性の高いモデルを自動的に生成:DataRobot Auto ML は、高度に自動化された前処理に加え、最新の機械学習ライブラリや独自のアルゴリズムを使用し、自動的に精度の高いAIモデルを作成します。更に特徴量のインパクト特徴量ごとの作用などのインサイトを提供することで、LTV に影響するドライバーを見つけることができます。
  3. 正確で緻密なパーソナライゼーションが可能:DataRobot Auto ML は、全ての属性や行動データに基づいて見込み LTV(例:初購入から1年間の合計購入金額)を予測し、「LTV が平均的に5万円になる顧客」のようなセグメントを自動的に検出してくれます。全てのデータを利用して、見込み LTV の高い顧客セグメントを同定することによって、より正確でかつ詳細なパーソナライズを実現できます。

以上のように、DataRobot を利用すれば、マーケターはセグメント作成を自動化でき、セグメントに対してのアクション設計(例:LTVスコアの高い顧客にはリアルチャットサービスを提供する、など)により多くの時間を割けるようになります。以上、「DataRobot を活用した DCX の向上」が従来の DCX 設計における課題をどのように解決するのかを、下図4にまとめました。

図4. DataRobot を活用した DCX の向上のまとめ
図4. DataRobot を活用した DCX の向上のまとめ

DataRobot と KARTE を使った連携方法のご紹介

前章では、DataRobot を活用した DCX の向上について説明しました。DataRobot のアウトプットに基づいて、マーケターは KARTE のようなカスタマー・エクスペリエンス・プラットフォームでセグメントを設定でき、オファーやコンテンツの出し分けのシナリオを設定できます。

この章では、LTV を活用してカスタマイズされた DCX を例に、DataRobot と KARTE の代表的な連携方法(3種類)を紹介します。

  1. ホットスポット方式:DataRobot で LTV の予測精度の高いルールを自動的に生成することで、ホットスポット(例えば、LTV の高い顧客セグメント)を見つけ、そのルールに基づいて、KARTE 内でカスタムセグメントを設定します。
  2. バッチ連携:DataRobo tを使用して、一人一人の顧客に対して LTV の予測値を計算し、バッチ連携によってこれらの予測値を KARTE に連携します。
  3. リアルタイム連携:JavaScript で DataRobot と KARTE を連携させることによって、最新の顧客の閲覧行動を活用し、DataRobot による個々の予測値を計算することができます。

それぞれの連携方法について詳しく見ていきましょう。

1. ホットスポット方式

DataRobot Auto ML は、数回のクリックで予測精度の高いモデルを自動的に作成することができます。その中に Rulefit というアルゴリズムが含まれており、ルールベースの塊となった AI モデル(ホットスポット)を構築します。ホットスポットによって、LTV の高いユーザーや LTV の低いユーザーに該当するルールが自動生成されます。(下図5で沢山の◯の一つ一つが、個別のルールに該当します)

図5. DataRobot Auto ML のホットスポット機能
図5. DataRobot Auto ML のホットスポット機能

生成されたルールは、ユーザーの属性や行動、複数の条件の組み合わせが考慮されています。

図6. DataRobot Auto ML の Rulefit アルゴリズムが自動生成したルールの例
図6. DataRobot Auto ML の Rulefit アルゴリズムが自動生成したルールの例

自動的に生成されたルールに基づいて、マーケターは KARTE でカスタムセグメントを作成することができます。それぞれのセグメントに対して、顧客体験をパーソナライズするための様々なシナリオを作成し、素早くテストすることで、PDCA サイクルを大幅に短縮することができます。

この方法は非常にシンプルであるという利点があります。ただ、ルール作成が自動化されたとしてもカスタムセグメントの更新を PDCA サイクルごとに行わないといけないというデメリットが残ります。このデメリットを解決し、より詳細なパーソナライゼーションを行う方法として、次にバッチ連携の方法を紹介します。

2. バッチ連携

バッチ連携では顧客の LTV 予測値を事前に計算するので、大量のデータを対象とすることができます。個々の予測値に基づいて、例えば、LTV が50,000円以上の場合はチャットサポートやクーポンを提供する、LTV が10,000円~49,999円の場合はクーポンを提供するなど、より高度なシナリオを KARTE で設定することが考えられます。

主に2種類のバッチ連携方法が考えられます。それぞれの方法で、KARTE から払い出された GCS バケットを活用し、DataRobot と KARTE Datahub の間で予測用のデータと予測値を転送できるようになります。

a. バッチ実行端末によるジョブスケジューリング

下図7にプロセスフローを示します。

  1. バッチ実行端末を使って DataRobot の予測ジョブをスケジューリング(図7 – ①)
  2. 予測結果を取得(図7 – ②)
  3. 出力結果は、バッチ端末から GCS バケットに転送(図7 – ③)
  4. 最終的に KARTE Datahub に取込まれる(図7 – ④と⑤)

この方法は必要に応じてバッチ実行端末内でデータエンジニアリングを行い(高度な特徴量エンジニアリングや KARTE に含まれていないデータソースの使用など)、要件に応じてエラー処理を行うことができるという利点があります。

図7. バッチ実行端末によるジョブスケジューリングの連携方法
図7. バッチ実行端末によるジョブスケジューリングの連携方法

b. DataRobot と KARTE 双方のジョブスケジューリング機能を活用

高度なデータエンジニアリングを行う必要がなく、エラー処理にクリティカルな要件がない場合には、DataRobot と KARTE 双方のジョブスケジューリング機能を活用することが考えられます。ジョブは DataRobot と KARTE それぞれでスケジューリングされるため、追加の端末コストを節約することができます(図8)。

図8. DataRobot と KARTE 双のスケジューリング機能を活用した方法
図8. DataRobot と KARTE 双のスケジューリング機能を活用した方法

DataRobot ML Ops 製品の「バッチ予測ジョブの定義とスケジューラー」(本稿公開時には公開ベータ機能)を使うとバッチ予測のジョブを簡単に設定できます。「予測」>「ジョブ定義」タブで、ソースタイプに GCP を選択し、予測データ用のURLと形式を指定することによって予測ジョブを登録します(下図9)。その後、そのジョブをスケジューリングすることが可能です。

図9. DataRobot ML Ops のバッチ予測ジョブの定義とスケジューラー機能
図9. DataRobot ML Ops のバッチ予測ジョブの定義とスケジューラー機能

以上、バッチ連携で事前に予測値を計算する方法をご紹介しましたが、実業務においては「たったいまユーザーがウェブサイト上で行っている行動データを使ってシナリオを提供したい」というケースもあると思います。このケースに対応するリアルタイム連携について、次のセクションで詳しく解説します。

3. リアルタイム連携

JavaScript で開発することによって DataRobot と KARTE をリアルタイム連携することが可能です。KARTE で取得した値やアクションは JavaScript から直接呼び出すことができ、JavaScript から DataRobot API を呼び出して予測値を取得します。

  1. KARTE で必要データを取得
  2. DataRobot の予測を呼び出し、予測を実行、結果を取得
    ※リアルタイム予測を満たすデプロイ手法を選択
  3. 予測結果を元に KARTE のアクションを実行

上記全てのステップを JavaScript で実現しますが、この方法をとると、データの前処理が必要な場合には、そちらもJavaScriptで実施する必要があり、場合によっては JavaScript の処理に時間がかかり過ぎてしまうため、UX の悪化に繋がる可能性があることに注意が必要です。

そこで、リアルタイムに大きく変化しない過去のトランザクションデータや属性データの前処理は事前に済ませておき、そのデータを元にした予測値(今回の場合は LTV)は上のバッチ連携方式で計算しておくのがポイントです。その上で、バッチ連携方式での予測値+リアルタイムに利用したいデータのみを JavaScript で KARTE と DataRobot に連携することによって JavaScript の処理を最小化しつつリアルタイムデータを活用した予測値を利用できます。

ただこの方式でも、JavaScript 開発が必須となり、かつ、計算時間の影響によるアクションのラグは多少発生するので、これらのトレードオフを見極めて本当にリアルタイム連携で実装する必要があるかどうかを検討するのが良いと思います。筆者の感覚では実際には前章のバッチ連携方式で8割以上のケースをカバーできます。

なお、リアルタイムに利用したいデータの種類が多くない場合には少しアプローチを変えて、バッチ連携方式+ルールベースで組み合わせたセグメント(LTV の予測値と「滞在時間1分以上」などのルールの組み合わせ)を作ることによって、JavaScript の追加開発なしにアクションはリアルタイムにした上で、十分なパーソナライゼーションを行える場合があります。したがって、リアルタイム連携に興味がある方はまずはこちらを検討していただくのも良いかと思います。

まとめ

本稿では、機械学習を使ってデジタル顧客体験(DCX)を改善する方法を紹介しました。DataRobot を活用する事で、よりスピーディーかつ簡単に高度な顧客セグメントを構築できるようになります。また、DataRobot と KARTE を連携させることによって、一人一人の顧客に対して、より高度にパーソナライズされた体験を提供できるようになります。

参考文献

[1]https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_01.pdf

[2]https://www.businessinsider.jp/post-230159

[3]https://en.wikipedia.org/wiki/Customer_experience

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執筆者について
グザビエ フォンテーヌ(Xavier Fontaine)
グザビエ フォンテーヌ(Xavier Fontaine)

データサイエンティスト

DataRobot データサイエンティスト。国籍はフランス人で、日本に在住して10年。元マッキンゼーのデータサイエンティストで、小売・CPG 企業での需要予測、品揃え最適化からマーケティング分野に関する経験を保有。DataRobot のエンド・ツー・エンド AI プラットフォームを活用して、企業の AI 変革を推進。現在、主に小売企業、またマーケティング分野のテーマをもつお客様に対する支援を担当。

グザビエ フォンテーヌ(Xavier Fontaine) についてもっとくわしく
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